ペットの病気 第二話 僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全はペットの病気の中でもよく耳にする病名です.猫よりも犬に多く,特に高齢の小型犬がなりやすいと言われています.
僧帽弁は心臓にある大きな弁で,血液循環になくてはならない大切な弁です.トップ画にもありますがよく医療ドラマなどで目にする心電図の波形の意味や血液循環なんかも解説しながら書いていくので,ちょっとうんちくを披露したいとき(例えば焼き鳥のハツは心臓です.ハツを食べる時に心臓の話ができますね!)などに使えるネタかもしれません.
上にも書きましたが,僧帽弁とは心臓の中にある弁です.知ってるとは思いますが,弁は血液が逆流しないようにするための蓋みたいなやつです.
ちなみにこれも知ってるかもしれませんが血液循環は,
全身 → 大静脈 → 右心房 → 三尖弁 → 右心室 → 肺動脈弁 → 肺動脈 → 肺 → 肺静脈 → 左心房 → 僧帽弁 → 左心室 → 大動脈弁 → 大動脈 → 全身
という感じです.
心臓には以下の合計4つの大きな弁が存在します.
・三尖弁 − 右心房と右心室の間
・肺動脈弁 − 右心室と肺動脈の間
・僧帽弁 − 左心房と左心室の間
・大動脈弁 − 左心室と大動脈の間
下の図の青い点線が全身から戻ってきた二酸化炭素をたくさん含んだ静脈血で,赤い点線が肺から戻ってきた酸素をたくさんふくむ動脈血の流れです.
緑で囲った所に僧帽弁があります.
心臓の音といえば,ドキドキとか,ドックンドックンともしかしたらバッコンバッコンと表現する人もいるでしょう.英語だとlub dubだそうです.
これらの音はさっきの4つの弁が閉まる音だとみなさんご存知でしたか?
心臓の音は2つの音から構成されてます.
・「ドッ」がⅠ音 − 僧帽弁と三尖弁が閉まる時の音
・「クン」がⅡ音 − 大動脈弁と肺動脈弁が閉まる時の音
つまり「ドッ」のあとに,左右の心室が収縮し,”右心室→肺動脈” および ”左心室→大動脈” へ血液が拍出され.
また,「クン」のあとに,左右の心室が拡張し,”右心房→右心室” および”さ左心房→左心室” へ血液が入ってきます.
僧帽弁閉鎖不全とは僧帽弁がちゃんと閉まらなくなる病気なので,僧帽弁がちゃんと閉まらないと”左心室→大動脈”へきちんと血液を拍出できなくなり,左心房へ血液が逆流したり全身へ血液が行き渡らなくなります.
最初の方に僧帽弁閉鎖不全は高齢の小型犬に多いと書きました.僧帽弁閉鎖不全になると咳(特に夜中)をするという症状が出ます.あとは運動をしなくなるとか.
犬の咳って人間の咳とちがってゴホゴホとかゲホゲホとかじゃなくてどちらかというと吐きそうみたいな感じです.吐きそうなんだけど嘔吐はない場合,それは咳かもしれません.
ところで,心臓の病気なのに咳をするのは少し不思議ではありませんか...?
咳が出てしまう理由を僧帽弁閉鎖不全症の合併症としてよく見られる肺水腫のメカニズムとともに解説します.
肺水腫とは...?
肺胞内に液体は漏れ出して溜まった状態を肺水腫といいます.陸の上で溺れる感じですかね.
心臓が正常に動いて,血液の逆流などが発生していない場合は血圧と血管外の圧力は均衡を保っています.ですが,僧帽弁閉鎖不全症などで左心の血圧が異常に上昇してしまうと血液内の水分が血管外の間質や肺胞へあふれ出します.これによって肺水腫が引き起こされます.
肺水腫が起きると今度は水が溜まった肺によって気道が圧迫され,気道が圧迫されることによって咳が出ます.
ペットとして飼われている犬は人間と同じ生活サイクルをしていることが多いので夜寝る時に横になることでより心臓や圧迫されることで血圧が上がったり,気道が圧迫されることで夜中の咳が特徴的な症状として挙げられると考えられます.
僧帽弁閉鎖不全症に対しては,外科手術よりも内科療法がメインとなっており運動制限や塩分制限,利尿剤投与,降圧剤投与などが行われています.
薬の投与によって一時的に症状が緩和されても病気が治ったわけではないので一度治療を始めたら一生薬を飲み続けることになります.
場合によっては酸素吸入の為に酸素室をレンタルすることもあるかもしれません.
特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは他の犬種に比べて早期に発症することが多いので犬を飼う際は(犬だけはないですが...)血統によって発症しやすい疾患なども知っておく必要があります.病気になるからこの犬種を諦めるということではなく,飼うならあらかじめわかっておいた方が犬のQOLがいいと思うので...
最後に心電図について書きます.
下に心臓の刺激電動系の図を用意しました.
心臓は電気信号で動いていることはみなさんご存知のことかと思います.
電気は流れるものなので,心臓の電気信号も以下の順番に流れます.
洞結節 → 房室結節 → ヒス束 → 右・左脚 → プルキンエ繊維
洞結節から出た信号は左右の心房に伝わり,心房が収縮します.この過程を心房の興奮と表現し,心電図のP波が表します.P波は心電図の最初の小さな波です.
左右の心房から房室結節,ヒス束,左右脚へど電気刺激が伝わります.この時の波形をQRS波といい,心電図の真ん中の下がって上がって下がってる部分で表されます.Q波が心室中隔の興奮,R波が心室筋の興奮,S波は電極の位置とは逆の心室筋の興奮を意味します.つまりQRS波は心室が収縮する際の興奮過程を表しているのです.(RとSの大きさに差があるのは電極からの距離のせいです)
最後のT波は電気的な回復過程を示します.余った電気を放出して次に備えるという感じでしょうか.
僧帽弁閉鎖不全症でみられる心電図は僧帽性のP波といい,二峰性のP波が見られます.二峰性とは山が2つあるということです.P波は左右の心房への電気信号を表しています,洞結節は右心側にあるので右心房の方がわずかに早く信号が伝わるのですが,正常な場合は波形には現れません.僧帽弁閉鎖不全によって左心房が膨張することによって距離が増え左心房への信号伝達の遅延が二峰性の波形を生み出します.
ペットの病気 第一話 黄疸
生きていると,家族が病気になったり,友人が病気になったり近所の人が病気になったり,有名人の病気のニュースを耳にしたり,ペットが病気になったりします.そうすると,糖尿病になるとおしっこに糖分でてしまうとか,黄疸になると黄色くなるとか,そういったことを自然と知ることになるのですが病名となんとなくの症状を知っていてもなぜそうなってしまうのかを知らないことが多いと思います.このシリーズではペットに多い疾患を1つずつ挙げてそれぞれの疾患の症状を呈するに至るメカニズムを解説して行きたいと思います.基本的にこのwebサイトはペット(主に,犬や猫)に関して記事を書いていますが人間だって同じ哺乳類で犬や猫と同じ様な病気,同じ様な症状を呈すことは珍しくありません.今までなんとなくしか知らなかった身近な病気について「なるほど」となっていただければ幸いです.
第一話は「黄疸」について書いていきます.例によって,試験勉強を兼ねた記事作成なので,私自身の理解が足りてないものから取り上げていきます.
黄疸は肝臓の病気!
みなさん,黄疸という病気はどこではじめて知りましたでしょうか?私はブラックジャックによろしく!で知りました.確か高校生か中学生くらいだったと思います.そのときは,体が黄色くなっちゃう病気くらいの認識でした.
当時は黄疸が肝臓の疾患によって発生していることはつゆ知らず,そもそも肝臓がなにをしている臓器かもよく知りませんでした.
肝臓は生体の化学工場!
肝臓は生体の化学工場と言われるように,以下のような,体に必要な化学物質を合成したり,貯蔵したり,分解したりなどさまざまな仕事をこなしています.
・栄養素の代謝
→消化吸収した栄養素を貯蔵したり,活用できる形に加工する.
・解毒
→アルコールなどの有害物質の分解,不活化.
・胆汁の産生
→胆汁は肝臓で作られ,胆嚢に貯蔵される.
・生体防御作用
→肝臓ではマクロファージがバクテリアや異物を貪食する.
・血漿蛋白の合成
黄疸の原因は血液!
黄疸と上記に示した「胆汁の生成」には大きな関連があります.そして胆汁と血液にも大きな関連があるのです.
では,胆汁とはそもそもなんなんでしょう...?
胆汁とはうんちを茶色くしている成分で,脂肪の消化を助ける役割と不要になった血液を破壊した際に発生する成分を排泄する役割を持っています.この血液を破壊した際に発生する「ビリルビン」という物質がうんちを茶色くしたり,血中で高濃度になることで黄疸を起こしたりしています.
余談ですけど,私は胆汁という言葉を聞くと,昔読んだ哲学書(キルケゴールだったかな,,,?)で憂鬱を意味する「メランコリー」という言葉は「胆汁」と語源が一緒みたいなことが書いてあったのを思い出します.苦いからかな,,,?
黄疸には3パターンある!
上で黄疸の原因はビリルビンと書きました.つまり黄疸の発生機序を理解するにはこの「ビリルビン」がどうやって上昇するかを知ることと同義になります.
黄疸には以下の3つのパターンがあります.
つまり血中のビリルビンが増えるのには3パターンの原因があるのです.
・肝前性黄疸 = 溶血性黄疸
・肝性黄疸 = 肝細胞性黄疸
・肝後性黄疸 = 閉塞性黄疸
正常時!
黄疸の3つの原因を書きましたが,それらについて書く前に正常時のビリルビン生成の流れを知る必要があります.
ビリルビンは決して悪者ではないのです.
健康な状態でも少量のビリルビンが血液中を流れています.
生体内に存在するビリルビンには二種類あり,それぞれ
・間接型ビリルビン
・直接型ビリルビン
といいいます.
間接型ビリルビンは非抱合型ビリルビン,非共役型ビリルビンともいい水に解けないタイプのビリルビンのことを指します.アルブミンと結合することで血液中移動できます.
直接型ビリルビンは抱合型ビリルビン,共役型ビリルビンとも言います.アルブミンと結合して肝臓に辿りついた間接型ビリルビンがアルブミンとの結合を解かれ,ひとりでも水に溶ける様に抱合されたのが直接型ビリルビンです.
血中のビリルビンはこれら間接型と直接型を合わせた値を測定しています.
では,ビリルビンはどうやって作られているのでしょうか...?
ビリルビンは血液を破壊した際に発生するとどこかに書きました.血液と一口に言いましたが,血液成分は血漿成分と血球成分に大別できます.血漿は血清と血中蛋白などで構成され,血球は赤血球,白血球,血小板で構成されています.ここでお話している「血液の破壊」とは赤血球の破壊のことを意味しています.赤血球の寿命は人間だと約120日と言われています.寿命を迎えた赤血球は脾臓に運ばれ,赤血球中の成分であるヘモグロビンがヘムとグロビンという物質に分解されます.グロビンはそのまま再利用されるのですが,ヘムはさらに鉄と間接型ビリルビンに分解され,鉄もそのまま再利用され間接型ビリルビンはアルブミンと結合して肝臓に運ばれます.
やっと,ビリルビンが登場しましたね.
でもビリルビンの長い旅はここから始まります...
ビリルビン登場までの今までの流れを簡単にまとめるとこんな感じです.
赤血球 → ヘモグロビン → ヘム → 間接型ビリルビン...(アルブミンと共に肝臓へ)
血液中を移動するためにアルブミンと結合していた間接型ビリルビンは,肝臓で抱合され水溶性の直接型ビリルビンへと変身します.
直接型ビリルビンは,胆嚢に運ばれ胆汁成分として十二指腸に排泄されます.さらに直接型ビリルビンは腸内細菌によってウロビリノーゲンという物質に変化します.このウロビリノーゲンという物質は酸化することでウロビリンという物質に変化します.
ウロビリノーゲンは門脈を通り少しだけ腎臓に運ばれます.なのでウロビリノーゲンは正常な尿にも少しだけ含まれます.腎臓で酸化することで茶色いウロビリンに変化し尿中に排泄されます.おしっこが黄色いのはウロビリンのせいだったんです.
おしっこで出て行くウロビリンはほんとにちょっとです,ウロビリノーゲンは腸内でも酸化してウロビリンになり,うんちに混ざります.うんちに混ざって出て行く方が量が多いので,うんちは茶色くなります.
生き物の体はとても節約するようにできているので,うんちやおしっことして捨ててしまうウロビリンはマイノリティな方で,ほとんどのウロビリノーゲンは門脈を通って肝臓に帰ります.
これを腸肝循環またはオルニチンサイクルといいます.
肝臓に帰ったウロビリノーゲンは何事もなかったかのように胆嚢へ行き,再び胆汁と共に十二指腸に排出されます.
正常なビリルビンの旅はこんな感じです.
では,黄疸の話に戻ります.
①肝前性黄疸(溶血性黄疸)
読んで字のごとく,肝に来る前に起きる黄疸のことです.溶血とは赤血球が破壊され中のヘモグロビンが出てきちゃうことです.
つまり,ビリルビンの元であるヘモグロビンが血中で増加してしまいます.
この時に作られるビリルビンはまだ間接ビリルビンで,血中で増加しているのは間接型ビリルビンです.増えてしまった間接型ビリルビンは正常なルートを通りウロビリノーゲンとしておしっこに排泄されます.おしっこのウロビリノーゲンはいつもより多いのでおしっこが濃くなります.
また,溶血はCBC検査でも判別可能です.
②肝性黄疸
肝細胞性黄疸または肝細胞障害性黄疸,,,つまり肝疾患によって発生する黄疸です.
間接型ビリルビンは肝臓で抱合され直接型ビリルビンになるので,肝疾患になってしまったら直接型ビリルビンが作られなくなってしまうと思いきや,
肝疾患になっても直接型ビリルビンは作れるそうです.
逆に肝疾患によってせっかく作った直接型ビリルビンが血液中に漏れ出してしまうそうです.これが黄疸の原因となります.
つまり肝性黄疸で増加しているのは直接型ビリルビンです.
直接型ビリルビンは水に溶けるのでおしっことして排泄されます.血中で増加した直接型ビリルビンは腎臓を通過して尿として排泄されます.(正常であれば尿中にビリルビンは排泄されない)
門脈から戻ってきたウロビリノーゲンも肝臓で漏れ出してしまうので,血液と一緒に腎臓に運ばれ,いつもよりたくさんのウロビリノーゲンを尿として排泄します.つまりおしっこが濃くなります.
③肝後性黄疸(閉塞性黄疸)
読んで字のごとく,肝臓の後で黄疸になる疾患です.どこが閉塞するのかというと,胆管です.胆管は胆嚢から十二指腸へ胆汁を排出するための管です.胆管が閉塞すると胆汁が排出されなくなります.胆汁には直接型ビリルビンが含まれているので,
うんちを茶色くする成分であるウロビリンが不足して便が白っぽくなります.
また,閉塞によって直接型ビリルビンは血液に漏れ出してしまうので,血液中の直接ビリルビンが増加し,尿としても排泄されます.
肝性黄疸と肝後性黄疸はレントゲンやエコーでも病変を確認することでできるので,黄疸が見られた場合血液検査や尿検査とともにエコーやレントゲンによる検査も行うかもしれません.
以上が黄疸のメカニズムです.
黄疸の話をするには,なぜおしっこが黄色いのか,なぜうんちが茶色いのかを説明しなければいけないので,長々としてしまいした.
両方とも元を辿れば血液の色だったんですね.
検査の話までしか書かなかったのですが,そのうち3種類の黄疸の治療方法に関してもかけたらいいなと思います.
ただ,黄疸が見られた場合けっこう病状が進行していることが多いそうなのであまり楽観できないそうです.さいごにビビらせてすみません.
動物病院では血液検査や尿検査をよく行います.病気になってはじめて検査をすることが多いかもしれませんが,健康なときの状態を把握しておいた方が病気になったときに比較しやすいので健康なうちにぜひ一度健康診断をかねて血液検査,尿検査をすることをおすすめします.
ごあいさつ
あらためまして.
webサイトを閉じて,はてなブログに引っ越してきました.
前は動物看護士統一認定試験の練習問題ページとブログを両方同じサイトで運営していましたが,今後はブログはブログ,練習問題はアプリへと住み分けして行こうと思っております.
アプリはそのうちぼちぼち着手します...
志は以前とあまり変わっていないので,とりあえずコピペしときます.そのうちちゃんと書きます.
ここでは、このwebサイトの目的や作成の理由などをご説明しています。
思うところあって動物の専門学校に現在通っており、来春には動物看護師として働き始めます。学校の先生は動物看護師の仕事の一つとして動物(ペット)のお世話に関する正しい情報を飼い主の方にお伝えすることだと聞いたので、それなら学校でならったことをどんどん広めようと思ったのがきっかけで、また以前仕事をしていた時に情報処理の試験を受験していたのですが、勉強するにあたって一問一答ページがとても有用だったのですが、動物看護師統一認定試験ではまだあまり充実してなさそう、アプリも一個あるみたいですがあんまり使いやすそうじゃなかったので勉強もかねて自分で作ってみることにしました。
動物と一緒に暮らしている方や動物看護師の勉強をしている方に少しでもお役になれば幸いと思っております。
以前の仕事ではこのようなwebサイトを作成したり、HTMLをしょっちゅう使うなどはなかったので、サイト運営はほとんど素人ですので、暖かく見守っていただければいいなと思っております。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。