ペットの病気 第一話 黄疸

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 生きていると,家族が病気になったり,友人が病気になったり近所の人が病気になったり,有名人の病気のニュースを耳にしたり,ペットが病気になったりします.そうすると,糖尿病になるとおしっこに糖分でてしまうとか,黄疸になると黄色くなるとか,そういったことを自然と知ることになるのですが病名となんとなくの症状を知っていてもなぜそうなってしまうのかを知らないことが多いと思います.このシリーズではペットに多い疾患を1つずつ挙げてそれぞれの疾患の症状を呈するに至るメカニズムを解説して行きたいと思います.基本的にこのwebサイトはペット(主に,犬や猫)に関して記事を書いていますが人間だって同じ哺乳類で犬や猫と同じ様な病気,同じ様な症状を呈すことは珍しくありません.今までなんとなくしか知らなかった身近な病気について「なるほど」となっていただければ幸いです.

 

 第一話は「黄疸」について書いていきます.例によって,試験勉強を兼ねた記事作成なので,私自身の理解が足りてないものから取り上げていきます.

 

黄疸は肝臓の病気!

 みなさん,黄疸という病気はどこではじめて知りましたでしょうか?私はブラックジャックによろしく!で知りました.確か高校生か中学生くらいだったと思います.そのときは,体が黄色くなっちゃう病気くらいの認識でした.

 当時は黄疸が肝臓の疾患によって発生していることはつゆ知らず,そもそも肝臓がなにをしている臓器かもよく知りませんでした.

 

肝臓は生体の化学工場!

 肝臓は生体の化学工場と言われるように,以下のような,体に必要な化学物質を合成したり,貯蔵したり,分解したりなどさまざまな仕事をこなしています.

・栄養素の代謝

→消化吸収した栄養素を貯蔵したり,活用できる形に加工する.

・解毒

→アルコールなどの有害物質の分解,不活化.

・胆汁の産生

→胆汁は肝臓で作られ,胆嚢に貯蔵される.

・生体防御作用

→肝臓ではマクロファージがバクテリアや異物を貪食する.

血漿蛋白の合成

アルブミンなどの血漿蛋白を合成する.

 

黄疸の原因は血液!

 黄疸と上記に示した「胆汁の生成」には大きな関連があります.そして胆汁と血液にも大きな関連があるのです.

 

では,胆汁とはそもそもなんなんでしょう...?

 胆汁とはうんちを茶色くしている成分で,脂肪の消化を助ける役割と不要になった血液を破壊した際に発生する成を排泄する役割を持っています.この血液を破壊した際に発生するビリルビンという物質がうんちを茶色くしたり,血中で高濃度になることで黄疸を起こしたりしています.

 余談ですけど,私は胆汁という言葉を聞くと,昔読んだ哲学書キルケゴールだったかな,,,?)で憂鬱を意味する「メランコリー」という言葉は「胆汁」と語源が一緒みたいなことが書いてあったのを思い出します.苦いからかな,,,?

 

黄疸には3パターンある!

 上で黄疸の原因はビリルビンと書きました.つまり黄疸の発生機序を理解するにはこの「ビリルビン」がどうやって上昇するかを知ることと同義になります.

黄疸には以下の3つのパターンがあります.

つまり血中のビリルビンが増えるのには3パターンの原因があるのです.

肝前性黄疸 = 溶血性黄疸

肝性黄疸 = 肝細胞性黄疸

肝後性黄疸 = 閉塞性黄疸

 

 

正常時!

黄疸の3つの原因を書きましたが,それらについて書く前に正常時のビリルビン生成の流れを知る必要があります.

ビリルビンは決して悪者ではないのです.

健康な状態でも少量のビリルビンが血液中を流れています.

生体内に存在するビリルビンには二種類あり,それぞれ

・間接型ビリルビン

・直接型ビリルビン

といいいます.

間接型ビリルビンは非抱合型ビリルビン,非共役型ビリルビンともいい水に解けないタイプのビリルビンのことを指します.アルブミンと結合することで血液中移動できます.

直接型ビリルビンは抱合型ビリルビン,共役型ビリルビンとも言います.アルブミンと結合して肝臓に辿りついた間接型ビリルビンアルブミンとの結合を解かれ,ひとりでも水に溶ける様に抱合されたのが直接型ビリルビンです.

血中のビリルビンはこれら間接型と直接型を合わせた値を測定しています.

では,ビリルビンはどうやって作られているのでしょうか...?

 ビリルビンは血液を破壊した際に発生するとどこかに書きました.血液と一口に言いましたが,血液成分は血漿成分と血球成分に大別できます.血漿は血清と血中蛋白などで構成され,血球は赤血球,白血球,血小板で構成されています.ここでお話している「血液の破壊」とは赤血球の破壊のことを意味しています.赤血球の寿命は人間だと約120日と言われています.寿命を迎えた赤血球は脾臓に運ばれ,赤血球中の成分であるヘモグロビンヘムグロビンという物質に分解されます.グロビンはそのまま再利用されるのですが,ヘムはさらに間接型ビリルビンに分解され,鉄もそのまま再利用され間接型ビリルビンアルブミンと結合して肝臓に運ばれます.

やっと,ビリルビンが登場しましたね.

でもビリルビンの長い旅はここから始まります...

ビリルビン登場までの今までの流れを簡単にまとめるとこんな感じです.

赤血球 → ヘモグロビン → ヘム → 間接型ビリルビン...(アルブミンと共に肝臓へ)

 

血液中を移動するためにアルブミンと結合していた間接型ビリルビンは,肝臓で抱合され水溶性の直接型ビリルビンへと変身します.

直接型ビリルビンは,胆嚢に運ばれ胆汁成分として十二指腸に排泄されます.さらに直接型ビリルビン腸内細菌によってウロビリノーゲンという物質に変化します.このウロビリノーゲンという物質は酸化することでウロビリンという物質に変化します.

ウロビリノーゲンは門脈を通り少しだけ腎臓に運ばれます.なのでウロビリノーゲンは正常な尿にも少しだけ含まれます.腎臓で酸化することで茶色いウロビリンに変化し尿中に排泄されます.おしっこが黄色いのはウロビリンのせいだったんです.

おしっこで出て行くウロビリンはほんとにちょっとです,ウロビリノーゲンは腸内でも酸化してウロビリンになり,うんちに混ざります.うんちに混ざって出て行く方が量が多いので,うんちは茶色くなります.

生き物の体はとても節約するようにできているので,うんちやおしっことして捨ててしまうウロビリンはマイノリティな方で,ほとんどのウロビリノーゲンは門脈を通って肝臓に帰ります.

これを腸肝循環またはオルニチンサイクルといいます.

肝臓に帰ったウロビリノーゲンは何事もなかったかのように胆嚢へ行き,再び胆汁と共に十二指腸に排出されます.

正常なビリルビンの旅はこんな感じです.

では,黄疸の話に戻ります.

①肝前性黄疸(溶血性黄疸)

 読んで字のごとく,肝に来る前に起きる黄疸のことです.溶血とは赤血球が破壊され中のヘモグロビンが出てきちゃうことです.

つまり,ビリルビンの元であるヘモグロビンが血中で増加してしまいます.

この時に作られるビリルビンはまだ間接ビリルビンで,血中で増加しているのは間接型ビリルビンです.増えてしまった間接型ビリルビンは正常なルートを通りウロビリノーゲンとしておしっこに排泄されます.おしっこのウロビリノーゲンはいつもより多いのでおしっこが濃くなります.

また,溶血はCBC検査でも判別可能です.

 

②肝性黄疸

 肝細胞性黄疸または肝細胞障害性黄疸,,,つまり肝疾患によって発生する黄疸です.

間接型ビリルビンは肝臓で抱合され直接型ビリルビンになるので,肝疾患になってしまったら直接型ビリルビンが作られなくなってしまうと思いきや,

肝疾患になっても直接型ビリルビンは作れるそうです.

逆に肝疾患によってせっかく作った直接型ビリルビンが血液中に漏れ出してしまうそうです.これが黄疸の原因となります.

つまり肝性黄疸で増加しているのは直接型ビリルビンです.

直接型ビリルビンは水に溶けるのでおしっことして排泄されます.血中で増加した直接型ビリルビンは腎臓を通過して尿として排泄されます.(正常であれば尿中にビリルビンは排泄されない)

門脈から戻ってきたウロビリノーゲンも肝臓で漏れ出してしまうので,血液と一緒に腎臓に運ばれ,いつもよりたくさんのウロビリノーゲンを尿として排泄します.つまりおしっこが濃くなります.

 

③肝後性黄疸(閉塞性黄疸)

 読んで字のごとく,肝臓の後で黄疸になる疾患です.どこが閉塞するのかというと,胆管です.胆管は胆嚢から十二指腸へ胆汁を排出するための管です.胆管が閉塞すると胆汁が排出されなくなります.胆汁には直接型ビリルビンが含まれているので,

うんちを茶色くする成分であるウロビリンが不足して便が白っぽくなります.

また,閉塞によって直接型ビリルビンは血液に漏れ出してしまうので,血液中の直接ビリルビンが増加し,尿としても排泄されます.

 肝性黄疸と肝後性黄疸はレントゲンやエコーでも病変を確認することでできるので,黄疸が見られた場合血液検査や尿検査とともにエコーやレントゲンによる検査も行うかもしれません.

 

以上が黄疸のメカニズムです.

黄疸の話をするには,なぜおしっこが黄色いのか,なぜうんちが茶色いのかを説明しなければいけないので,長々としてしまいした.

両方とも元を辿れば血液の色だったんですね.

検査の話までしか書かなかったのですが,そのうち3種類の黄疸の治療方法に関してもかけたらいいなと思います.

ただ,黄疸が見られた場合けっこう病状が進行していることが多いそうなのであまり楽観できないそうです.さいごにビビらせてすみません.

動物病院では血液検査や尿検査をよく行います.病気になってはじめて検査をすることが多いかもしれませんが,健康なときの状態を把握しておいた方が病気になったときに比較しやすいので健康なうちにぜひ一度健康診断をかねて血液検査,尿検査をすることをおすすめします.